高度交通システムおよびブロックチェーンをメインに,分散・並列処理について研究しています.単なる理論研究にとどまらず,実社会で利用してもらえる技術を開発してきています.柴田が主導して研究開発したライブラリは,ARM HPC Compiler や Unity, PyTorch 等で採用され,現在世界中で広く使われております.またこのライブラリを開発するに当たって新規に提案したアルゴリズムがいくつかあり,この研究成果は IEEE Transactions on Parallel and Distributed Systems に採録されました.
徒歩移動を含むオンデマンドバススケジューリング効率的なバスの運行形態としてデマンドバスが注目されています.デマンドバスは,定時的な固定ダイヤを持たず,乗客の需要に合わせて動的にダイヤや経路を動的に変更するようなバスの運行形態です.交通空白地域の解消を目的にデマンドバスが導入されることがありますが,このような地域では元々公共交通の利用率が低く,またデマンドバスは通常の固定路線のバスよりも迂回が多くなる傾向があります.従って乗客 1 人あたりの運行コストが大きくなりがちであり,スケジュールの効率化が求められています.本研究では,ユーザの徒歩移動を含むデマンドバスのスケジューリングをリアルタイムで行う方式を提案しています.本手法では,バスの迂回が少なくなる乗客の乗降車地点をシステムが提案し,乗客の出発地・目的地と乗降車地点間は徒歩で移動します.これによりバスが細街路に入る必要性を削減するだけではなく,ユーザの待ち時間の有効活用や,乗降車が困難である地点への配慮が可能となっています.ユーザの乗車要求を受けて,サーバがユーザの徒歩移動範囲内のデマンドバスの迂回が少なくなる乗降地点を探索し,ユーザにその乗(降)地点まで(から)の徒歩移動を案内するために,既存手法であるADARTWを拡張した手法を提案しています. 発表論文等
|
交通信号制御方式 Green Swirl渋滞の発生原因は複数ありますが,そのうちの一つは合理的でない交通信号サイクルです.これまで多くの研究がなされてきましたが,実用化に至るまで研究された方式としてGreenWaveがあります.これは,車群の到着直前に信号が青になるように,交通信号のタイミングを適切にコントロールする方法です.欧米中多くの都市で既に導入されていますが,期待されたほど結果が良くなく,これまで多くの問題が発見されています.本研究では,GreenWaveの改善を目指し,車両走行効率向上を目指した信号制御方式および経路案内法を提案しています.本方式では,複数のGreenWaveを都市を取り囲むように渦巻き状に発生させ,巨大な循環道路を構築します.また,それぞれの運転者に最も良い経路案内をする一方,交通量を分散させるための独自の経路案内手法を用います.交通量の変化に応じて,車両をGreenWaveとそうでない道路に振り分け,都市の中心部から交通量を郊外に吸い出すことで交通量を分散させ,また都市の中心部の交通渋滞を緩和しつつ,車両の走行時間を短縮させることができ,燃費の悪化を招くこともありません. 発表論文等 |
大型駐車場内での経路案内本研究では,大型立体駐車場に焦点を当て,車車間や路車間の通信を用いたナビゲーションシステムでショッピングセンター駐車場における渋滞を解消する手法を提案しています.駐車場内にセンサやゲートを設置し,入場口の掲示板で空車スペースが存在するゾーンをドライバーに提示する方式が実用化されていますが,導入コストの高さや,普及率の問題が考慮されていなかったり,同じ情報を全てのドライバーに与えるため,多くのドライバーが同じ場所に向かってしまい,新たな渋滞を作ってしまうという問題がありました.提案する手法では,場内の車両から送信されたデータを基に,サーバが駐車場内の情報を入場車両に送信し,その情報を基に車両が自律分散的に駐車待ち時間の期待値が最小となる経路を計算し,ドライバーに提示することで短い時間でで駐車ができるように案内をします.専用の機器が不要で,市販の無線LANやパソコンでシステムを構築することができるため,システムの導入コストを抑制することができ,実現可能性の高い手法であるといえます. 発表論文等
|
ブロックチェーンで浪費されている計算資源で最適化問題の解探索を行うプロトコルビットコインなどのブロックチェーンの維持のために莫大な電力および計算資源が使われています.本研究では,この浪費されている計算資源および電力を任意のユーザ (以下クライアント) の登録した最適化問題の近似解の探索に利用できるようにする方法を提案しています.クライアントは解候補の評価プログラムおよび料金をシステムにジョブとして登録します.提案手法を用いたブロックチェーンの維持のために,多数のノードがこのプログラムを実行します.最も良い解を見つけたノードに対し,クライアントがジョブとして登録した料金が支払われます.提案手法は,ビットコインにおけるproof-of-workに似た動作原理を採用しており,完全な分散処理が可能であるという特徴があります. 発表論文等
|
MANETを利用したモバイル決済方式本研究では,被災地や携帯通信網の整っていない地域において利用可能な,MANETだけを利用するモバイル決済方式を提案しています.銀行のサーバなどに直接アクセスできないことを前提とし,手形の裏書きに似た方式を利用することで,顧客が商人から物品を購入する際の支払いを保証します.それぞれの顧客は,あらかじめ知り合いによる取引を一定の額まで保証する契約を銀行と結びます.商人から品物を受け取った顧客がもし代金を支払わなかった場合,その取引を保証した複数の顧客が代わりに支払います.もしその知り合いも支払いを拒否した場合,知り合いの知り合いが保証することになります.知り合いの知り合い,そのまた知り合いはたくさんいますので,責任を分散することで誰も支払わない可能性が低くでき,また不履行が起こった場合に肩代わりする額が少なくてすむ方式となっています.複数レベルの知り合いの状況を素早く調べるための効率的なプロトコルを提案しています.また,各ユーザがこれまでの取引履歴を改竄できないように,ブロックチェーンを利用しています. 発表論文等 |
ビザンチン攻撃耐性を有するMANET用ルーティングプロトコルビザンチン攻撃は,攻撃者自身がネットワークの経路に入り込み,攻撃者の中継するパケットのいずれをも破棄したり改竄できることを想定します.ネットワークの攻撃モデルの中で,攻撃者が最も強力であり,最も悲観的な想定ですが,本研究ではこのような想定の下でも正常に動作するようなMANET用のルーティングプロトコルを提案しています.提案するプロトコルは,善意のノードが全てネットワーク中で連結されたトポロジを維持していることを前提とし,善意のノード間でのパケット配送を保証することを目的としています.各ノードは経路中の前後のノードの通信内容を立ち聞きすることができるという前提で,経路中の前後のノードを監視します.隣接するノードが攻撃者であることを検出した場合,攻撃者のノードではなく,善意のノードと攻撃者のノードの間のリンクをネットワークから排除します.これにより,攻撃者が経路に組み込まれることを防止する一方,攻撃者が隣接する善意のノードに対する虚偽の告発を行った場合にも通信には問題が起こりません. 発表論文等
|
マルチコアプロセッサシステムにおけるノード故障を考慮したスケジューリング携帯電話などで動作するモバイルアプリケーションの多くが,多数の計算機が接続されたクラウドシステム上で動作するサービスを利用する形で実装されています.このようなサービスに信頼性を持たせるためには,計算機の故障に備える仕組みが必要となります.一方,クラウドシステムで利用されるプロセッサは,そのほとんどが1 つの半導体チップ上に複数のプロセッサコアを実装したマルチコアプロセッサであり,一つのチップで独立した複数のタスクを並列で実行します.電源故障等により,マルチコアプロセッサ上で動作している全てのタスクが同時に停止すると,処理を継続するために実行されていた複数のタスクを同時に回復する必要が生じます.本研究では,このような故障発生時に高速にチェックポイントからのリカバリが可能なようにタスケジューリングを行う手法を提案しています.1つのマルチコアプロセッサにタスクの割り当てが偏ることを防ぐために,故障発生時に影響が大きなタスクを別のマルチコアプロセッサに割り当てます.また,故障が発生しない場合のオーバヘッドが少ない利点があります. 発表論文等 |
ベクトル化された数学ライブラリ近年になって開発された高性能プロセッサは,Intel SSE2, AVX2, AVX512, ARM NEON, SVE等のSIMD命令が利用できるようになっています.従来このような命令を利用して高速に動作するソフトウェアをコーディングするためには多大な労力が必要でしたが,最近はコンパイラに自動ベクトル化機能が搭載されるようになり,SIMD命令を明示的に利用しないコードでも自動的にSIMD命令を利用するように変換されるようになってきました.これに伴い,三角関数などのライブラリもSIMD対応にすることで,プログラム全体の実行効率が向上することが期待できます.本研究では,C99規格におけるmath.hで定義された浮動小数点の関数全てをベクトル化して実装したライブラリをオープンソースソフトウェアとして公開しています.本ライブラリは,ARM HPC Compiler, Unity, PyTorchなどの商用製品やオープンソースソフトウェアで利用されています. 発表論文等 |